第1幕その11(途中)

目次

1-63

禁書について、ジェイスはルタとユシカの言葉では辻褄が合わないことを呟く。ルタは覚悟を決めて短剣を抜くがガルフが引き止めた。しかしガルフはルドヴァイア兵により背中から斬られ、ルタもルドヴァイア兵に取り押さえられる。

ジェイスは、禁書について虚偽の報告をした罪で、ルーシェ村の者全員を捕らえるようルドヴァイア兵らに命じる。そのときガルフはジェイスに罪人を差し出せることと、残る罪は自分が引き受けることを告げる。そしてシークスに、ルーシェ村にいるグラリアを連れてくるよう命じた。

シークスは動き出すが、ユシカが邪魔をする。

「ユシカちゃん、そこをどいて」
「……グラリアを、燃やすの?」
「今のままでは皆が罪人になってしまう」
「だからって、グラリアを燃やすの!?」

見兼ねたジェイスがユシカに、グラリアを燃やすのではなく国が管理することを提案する。ジェイスの真の狙いはグラリアの管理だった。

ジェイスの言葉に同調したシークスは、ユシカを宥める。

「ユシカちゃん。グラリアちゃんは、国側で保護される。禁書として燃やされることはないよ」
「グラリアちゃんと離れると悲しい気持ちはわかる。だけどグラリアちゃんに危害が加わることはないんだ」
「リ・グラスにはルドヴァイア国しかない。僕達が安全に暮らすには、誰も罪人にならないためには、国の方針に従うしかないんだ」
「『運命は最善の未来を約束しない。でなければ、誰も悲しむ必要はなかった』」
「……王子役のユシカちゃんのセリフ、僕は好きだったよ」
「忘れないで。僕達は如何なるときでも、運命に縛られている」

それでもユシカはグラリアを譲らなかった。

「アタシが知りたいのは、アタシがほしい答えは……!」
「アナタたちに、国に教わることなんかじゃない!」

ユシカはジェイスに殴りかかる。しかしルドヴァイア兵に取り押さえられてしまう。ジェイスは少々手荒な手段に出るためルタにユシカを借りると言うと、ルドヴァイア兵にユシカの片頬を思いっきりぶたせる。

ユシカは、グラリアをおびき出すための人質となった。

1-64

クロウはセフィル本部にいた。守護団セフィルにユシカとグラリアを見ていないかを尋ねたが、団員たちはそれどころではなかった。クロウは団員たちが戻るのを待っていると、雷雨の影響で停電になる。

暗闇の中に留まるクロウは、肝試しが苦手で、勇気を出せないことを思い出す。そして、ルタから励まされたときの言葉も思い出す。

「私も、出来ないことは出来なかったよ」
「でもね。出来ないことだろうと出来るようになりたいって思うときが、いずれクロウにも来るかもしれない」

そのあと、セフィル本部に取り残されたクロウのもとに、全身水浸しのミーナが現れる。

クロウはミーナの身体を拭くためのタオルを持ってくるが、タオルを渡す前にミーナはクロウに抱き着いてきた。

「いつになく大きな嵐に、ルーシェが呑まれてしまった……ルーシェの平和が崩れてゆく気がするの」
「守護団セフィルはここにいない、戻ってこない。村の人たちも不安になって……」

ミーナの言葉では何があったのかわからない。クロウはミーナを問い詰めるが、ミーナは「買ったばかりのオレンジを落としたら腐った」や「守護団セフィルは船着き場へ行った。船着き場には国の船が来ている」といった、理解しがたいことを明かす。

クロウはミーナに、門を開ける予備の鍵がないかを確認するが、今度はまたさらに不可解な言葉を零す。

「門……開かなくなっちゃったの。
守護団セフィルがいなくなったあと、みんなで開けようって話になったけど……赤い服の、変な人が……」
「行かないでクロウお兄ちゃん!!! 門の前は危険だよ! 急に倒れた人もいて、怖くて……」

クロウは、ルタの過去の言葉を支えに、それでも動き出すことを決意する。ミーナに、ルーシェの外に出る方法はないかと尋ねると、ミーナはクロウをガルフの事務室まで連れて行く。ミーナが事務室で探し物をする間、クロウはガルフの机の上に置いてある絵が気になって覗く。幼いミーナが笑っている絵の後ろに、若かりし頃のガルフと謎の女性の絵が隠れていた。その女性は人間ではなくエルフだった。ミーナは自分をシークスと同じ紛い物エルフだと名乗る。

ミーナは鍵の束を手にすると、クロウを連れてガルフの事務室を出る。ミーナはそろそろ男手一つで娘を育てた父にも幸せになってもらいたいようだが、うまくいかないらしい。

ミーナは、これから行く先のことについて、ユシカにもグラリアにも内緒だとクロウに警告する。

ミーナは隠し扉を開けて、階段を降りて遺体安置所がある方を目指す。しかし目的地は遺体安置所ではなく、遺体安置所の近くにある緊急用の出口だ。

1-65

ミーナに出口まで案内してもらう間、クロウはミーナから昔話を聞く。

ミーナの母はトルニカ島で生まれ、トルニカ島で亡くなった。彼女はトルニカ島の海で散骨されるのを望んだが、その望みは叶えられなかった。

クロウがこれから向かう緊急出口は、ルーシェの海から見える灯台と繋がっているという。が、厳密に言えばあれは灯台ではなく、遺体を焼却する場所。そして、海に帰れなかった人々の墓があるという。ミーナの母親はその墓のひとつで眠っている。

ミーナはクロウに呟く。

「時々ね、ぼんやりと思うの。前進しようとしてるはずなのに、後ろめたいんだ。
おかしいよね。矛盾したことで、今は幸せだって言えるはずなのに……いつか脆く壊れてしまう気がして、とても怖いんだ」

クロウは何も返事できなかった。

緊急出口まで辿り着いたところで、ミーナはクロウに鍵の束を渡す。

「ごめんね、クロウお兄ちゃん。今のわたしでは、出口まで一緒に行けないの」

ミーナとはここでお別れだった。

「クロウお兄ちゃん、ルーシェに帰ってきてね。わたしひとりじゃ、この村にいるのが耐えられない」
「その鍵は、とても大事なものなの。だから……遠くに行ってしまわないよう、わたしに返しにきてね」
「絶対だよ、約束だよ、クロウお兄ちゃん。わたしに大事なものを返すために、ルーシェに帰ってきてね」

1-66

クロウは、灯台と呼ばれた焼却場の出口を開ける。そのあと扉を閉めるとき、ユシカの「知りたい……というよりも、わけもなく意図的に隠されてしまうことが嫌なのかもしれない」という言葉がよぎる。

クロウは歯を食いしばったあと、「知らないままでいてほしい」と呟きながら、焼却場の扉を施錠する。

ルーシェの外に出たクロウだが、行く手にある橋は鍵がかかっていた。人が迂闊に焼却場に近づかぬようにするためだ。しかしミーナからもらった鍵に橋の扉を解除するものはなかった。

雷雨のせいで川の流れは早い。落ちたらひとたまりもない。それでもクロウは橋の外側(手摺)だけを使ってどうにか渡る。その様子を、ルーシェ村の占い師の塔の上に佇む赤い衣を纏う女が眺めていた。

橋を渡りきったクロウは、船着き場を目指して走る。大きな船が見えていて緊張が走るが、ここでまさかの魔獣に囲まれてしまう。クロウは短剣を握ったが、一斉に飛びかかる魔獣に怯んでしまう。そのとき、クロウの周りに風が発生し、風は魔獣をはじき飛ばす。

青い衣の者がクロウの前に降り立つ。その者はクロウになぜか先回りで祠の遺跡へ行くよう命じるが、フードから覗く黄金の髪と目を見たクロウは「誰がお前なんかに従うかよ」と言って悪態をついた。

クロウはそのまま船着き場を行こうとしたが、舌打ちして祠の遺跡を目指した。

1-67

祠の洞窟を潜ったクロウは、小さな墓地に続く道を選ぶ。ユシカとグラリアがいるならきっと、岩壁に痕があるからだ。

岩壁を確認すると、鋭利な石でうっすらと縦線だけ引かれていた。ユシカはいないがグラリアはいる。まだ事態がよく読めないクロウだが、クロウも縦線を引いて、小さな墓地に出る。

小さな墓地には、雨の中で膝を抱えて座り込むグラリアがいた。クロウがグラリアに声をかけると、一瞬だけ景色がブレる。枯れ果てた墓地で、誰かが枯れかけの白詰草の花束を抱き抱えながら泣いている姿が見えた。

グラリアは顔を上げたが、クロウはルーシェ村がある方を見つめる。しかしクロウは振り向き直し、グラリアにどうしてここにいるのかを尋ねる。

グラリアはクロウに、腕時計を見せる。クロウは、こんな時計トルニカ島にはないと言った。グラリアはこれを、ルタから預かったと答える。そして今は表の9時を過ぎているため、ルタの指示どおり奥に隠れて身を潜めていたという。

クロウはグラリアにユシカはどこにいるのかを尋ねる。ユシカの居場所は知らないとのこと。

クロウはユシカを捜しに行くから、グラリアにここで待つように言った。

クロウが祠の洞窟の出口に出ると、何かがこちらへ近付いてくる。それをよく見ると……白衣を着た男と、白衣の男を道案内するルタ、兵士らに人質に取られたユシカだった。

クロウは怒りに表に出そうになるが、必死に耐えて祠の洞窟へと戻る。小さな墓地まで戻ると、クロウはグラリアの手を取って「奥へ逃げよう」と言った。