第1幕その7

目次

1-43 乗り遅れたかもしれない告白

ユシカたち3名がルーシェに戻ったあと、今までと比べて穏やかな日々が続いた。悪くいえば、刺激のない日々といえるかもしれない。
クロウの寝坊や居眠りを除いて問題行動はなく、守護団セフィルのメンバーのほとんどから自宅謹慎の解除を認められた。

ルーシェ誕生祭は、夜から始まる。当日、祭りが開始する前に、シークスがラグナルド家を訪れる。ユシカたちはシークスから、自宅謹慎の解除の確認は、残るはガルフ団長ひとりだけだと聞かされる。ユシカはシークスに、ガルフひとりだけなかなか許可が降りない理由を聞いても、シークスは「団長は平和を大事にする人だから」とそれらしくはぐらかすだけ。

ユシカとグラリアは、シークス同行でセーナス家まで向かう。ユシカが着替えの整理をしたいと申し出たからだ。
セーナス家は、元はロルの別荘だ。そのせいか人気のない場所にあるため、途中で獣道のような山を登らなければならない。シークスは、人気のない場所で女性だけの家の前で待つのは気が引けるので、山の入口で待つことにした。

グラリアはユシカに連れられ山を登る。登り切ると小さな小屋と、海が見える崖があった。
ユシカはグラリアに家の中に入るのを勧めたが、グラリアは海を眺めたいと言った。その間ユシカは着替えの整理と、家の中の片付けをすることにした。

グラリアが眺める海は、先まで進むとダークフロンティアという領域がある場所だ。見る限りだと暗闇の気配など全く感じさせないのが不思議だった。

ユシカの家に招待されたグラリアは、家の中を散策する。タンスの上にある猫のぬいぐるみを見て、これは魔獣かと尋ねると、動物だと言われた。人間と共同生活できる古来の生き物が動物とのことだ。
元々いろんな種類の動物がいたが、ほとんどが魔獣に捕食されて絶滅してしまった。今の時代には、人間と共同生活できる動物しかいないという。
グラリアはユシカに、以前はどうして自分と一緒にこの家に一度戻りたかったのかを尋ねる。ユシカは「ここだと静かだから、安全だと思って」と答えると、グラリアから「私も、意図的に隠されてしまうのは、苦手かもしれない」という言葉が返ってくる。
ユシカは動揺しながらグラリアに謝るが、グラリアはおあいこだと言って、ユシカにもクロウにも打ち明けなかったことを告げる。

「君が認めないかぎり、君をこの島に置くわけにはいかない」
「ユシカの右手を正常にしたのは、君じゃないのか?」
「今はどこにも見当たらない錆びた鍵は、ユシカの右手の回復とともに消失したんじゃないのか?」
「君にある特別な力を抑えないと、トルニカ島は平和でなくなる」
グラリアにあると言われる特別な力は、平和を脅かすため追放しざるを得なくなるかもしれない……とのことだ。
本当にルタがそんなことを言ったのかとユシカは耳を疑う。そして、特別な力とは一体何のことだろうか。ユシカはグラリアに、その特別な力について心当たりがあるかどうかを尋ねると、首を横に振った。
ルタの発言は、確かに酷いかもしれない。しかしグラリアは、ルタが間違ったことを言っているわけではないと答える。なぜならルタの発言は、祠の遺跡でグラリアの手配書が見つかったとガルフから聞いたあとの発言だからだ。はっきりしないことが残ったまま、グラリアは自分のことを『きっと危ない存在』だと決め付ける。ユシカはグラリアに、それは違う、誰もグラリアを知らないからだと強く訴える。勝手な判断で、グラリアはここにいてはいけないなんて思うことこそいけないと、ユシカはグラリアを抱きしめる。
グラリアは、ユシカが離れたあとに「ありがとう」と言って、ユシカの体をそっと離す。

グラリアがルタやガルフから話を聞いたあと、特に目立った接触はなかったとのこと。ただ、ガルフとしては、祠の遺跡の探検で使用した宝の地図の事だけは気がかりそうだった。とはいっても、その宝の地図とやらは一切シザール文字を映さなくなってしまったため、ガルフに提出したところで納得してくれないだろう。
ガルフがユシカたちの自宅謹慎の解除を許可するのは、今日決まるかもしれないとのこと。グラリアは、ルーシェ村は禁書の所持を疑われていると聞いたが、ガルフが来賓の旅商人と話して、禁書の所持がなかったと看做されれば問題ないとのこと。

ユシカはまだ不安気だが、グラリアはユシカの手をとって、真っ直ぐとした目で「きっと大丈夫」と言う。それもまた決め付けだと言っても、グラリアはユシカに「自分を信じてほしい」と言った。
自分を信じてほしいと言うグラリアの姿に、ユシカは何か懐かしさを感じた。

山の下からシークスの声が聞こえてくると、ユシカはグラリアに先に行ってほしいと言う。
セーナス家にひとりになった頃、ユシカは白紙になってしまった宝の地図を手に取り、眺める。白紙の地図は何にも使わずに、テーブルに置いた。

1-44 ルーシェ誕生祭

シークス同行でラグナルド家まで行ったユシカとグラリアは、クロウと合流する。
クロウは、ラグナルド家にいるルタに、本当にルーシェ誕生祭に行っていいのかを聞く。クレアの看病なら私が行なうと言ったルタは、クロウに思う存分楽しむようにと言った。

クロウが出発する前に、クロウのもとまでやってきたクルトが伝言を頼む。ルーシェ誕生祭は、劇のときにだけ参加するとのことだ。
せっかく主役の日なのにとクルトに言う前に、クロウはクルトの膝下に驚く。膝の擦り傷が多く、劇の前に何走り回っているんだと突っ込むと、クルトは「劇の前だったから忙しかったんだ!」とムキになる。

ユシカとクロウとグラリアは、ルーシェ誕生祭が開催されている広場まで向かう。クルトから伝言を預かるクロウは、先にミーナを探した。
ユシカとグラリアは、ふたりで好きなように過ごす。さすがのシークスもルーシェ誕生祭では同行せず自由にさせた。

ユシカとグラリアが広場の隅でオレンジジュースを飲んでくつろいでいると、だいぶ遅れてクロウがやってきた。全身がボロボロだったため何をしていたのかと聞くと、いじめっ子集団のリーダー格とチャンバラごっこをしていたという。
するとシークスと仲が良い団員のひとりがボロボロのクロウを見かけて、話しかけてくる。傷を見ると、指で何かを描いて光を呼び出す。するとクロウの傷が一瞬で癒えた。
何をしたのかは内緒らしい。勝ったか負けたかはともかく、クロウがチャンバラごっこに参加したことをシークスと仲が良い団員のひとりは誉めていた。いつもならクロウはセフィル本部に逃げ込んでくるとのことだ。

グラリアは、クロウの分のオレンジジュースを買ってくると言って去る。シークスと仲が良い団員のひとりもグラリアに付いていくと言った。
ふたりきりになったユシカとクロウは、広場の手すりに体重をかけて祭りから背を向けると、ほんの少しだけ遠くにある静かな海を眺めながら会話する。

クロウはユシカに、どうしてグラリアが目覚めた日にセーナス家に戻りたいと言ったのかを尋ねる。またかと思ったユシカだが、グラリアから「私も、意図的に隠されてしまうのは、苦手かもしれない」と言われたことを思い出すと、何も言い出せなくなってしまう。
クロウは今度「今の俺が一番知りたいことは、ユシカの気持ちだ」と言った。続けてユシカの左手を取ると、ユシカを真っ直ぐと見つめながら「家族になるのは、納得いかないことなのか」と言う。
ユシカは新手の告白かと聞くと、クロウには全くそのような意図がなかったため激しく動揺し始めた。クロウの様子が面白かったためか、ユシカは思わず笑ってしまう。

クロウはユシカに、ラグナルド家の者たちと家族同然で過ごしてほしいと思っていた。どうしても距離感を感じるのは、ユシカが今なお左手首にリストバンド身に付けているからかもしれないと思ったようだ。ユシカの左手首にあるリストバンドに、シザール文字で「ユシカ・セーナス」と書かれた紙も仕込まれていた。もしあの紙に書かれていたシザール文字を誰も読めなかったら、ユシカの名前は無きものとされていただろう。

クロウは、ユシカから「知りたいと思うことは罪なのか」と言われたことを思い出す。罪かどうかは難しいが、ユシカが浜辺で救助されたときにルーシェ村の人々がユシカの名前を知りたいと思えたからこそ、今のユシカがいるのだろう。とはいえ、そのままラグナルドという姓を持てていたら、今みたいに悩むことはなかったかもしれないと茶化す。さらに「ユシカにできることは何もないなんて、そんな寂しいことを言わないでくれよ」とのよう、以前ユシカから聞いた「アタシにできることなんて、何もないのかもしれない」という呟きに対する不満を溢した。
ユシカは「だったらラグナルドという姓に変えて、お嫁さんにでもなってやろうかしら」と茶化し返すと、クロウは再び激しく動揺する。「他にもできることは普通にあるって!」と言うと「アタシを嫁にできると思ってるなんて、随分な自信よね」とユシカからさらに突っ込み返され、クロウは頭を抱えてしまう。

頭を抱えていたクロウのところに、ひんやりとしたものが当たる。グラリアが持ってきたオレンジジュースがクロウの首に当たっていた。
グラリアは登場を知らせるまで、しばらくユシカとクロウの会話を伺っていたようだ。一緒にいたシークスと仲が良い団員のひとりも同じく。
シークスと仲が良い団員のひとりは、クロウの肩を寄せると「恋愛運を占いに行くぞ!」と無理やり連れていった。

1-45 占いの館

広場の中にある占いの館の前では、ミーナが泣いていた。ミーナの周りでは彼女の友達がミーナを励ましていた。どうやら恋占いの結果で「ミーナの好きな男なら、その男よりも高学年の女に惚れてるよ」と言われたらしい。

占いの館の入口には、副団長のシークスと、シークスと仲が良い団員の別のひとりが立っていた。シークスと一緒にいる団員は、泥酔で口が軽くなる団員だ。そして、クロウを占いの館まで引っ張ってきた団員が、素面で口が軽くなる団員だ。

泥酔で口が軽くなる団員に背中を押されたシークスは、占いの館に入る。シークスのあとに続けて入るのは泥酔で口が軽くなる団員だけでなく、素面で口が軽くなる団員とクロウ、そしてユシカとグラリアだった。

シークスは占い師に、将来自分は出世できるかどうかを占ってもらった。結果は、シークスだけでは難しいようだ。そして入室前にノックできない男なのがよくないらしい。
まさかの結果に落ち込むシークスを傍に、素面で口が軽くなる団員は代金を置いて便乗し、シークスの恋愛運を占ってもらうことにした。結果は、入室前にノックできない癖を直さないと、一生独り身とのことだ。
シークスのあまりの占い結果ゆえ、入室前にノックできない癖が直るよう協力すると、泥酔で口が軽くなる団員から言われる。

シークスと泥酔で口が軽くなる団員が退出したあと、今度はクロウの恋愛運を占ってもらった。結果は、恋愛の前にまずは自分が何になりたいのかを見つけろとのことだ。恋愛とはさして関係ない結果なのもあり、クロウは内心安心した。

今度はグラリアが自分も恋愛運を占いたいと申し出る。初回のお代はサービスしてくれたが結果は容赦しないことに承諾して占うと、どうにもグラリアの占い結果が出ないとのこと。
占い師は、ユシカたちの前だろうと、太陽のシンボルを描き出す。ようやく占い結果は見えたのだが……。
『海が見える』
『海は、とても深い。とても美しい歌が聴こえるけれど、歌うのはあんたじゃない。
嵐は夜空を奪い、あんたは危険だとわかっていながら歌声に導かれ、海に拐われる』
『嗚呼、嵐があんたを追いかけてる。嵐の怒りに切り刻まれるのか、深い海への錨に引きずり込まれるのか、海が深すぎてわからない』
『あんたは花嫁姿で泣いてる。バッドエンドだ。それでも物語は続くのだから、あんたは傷を抱えながらももう一度訪ねて、その後は、今度こそ、血と海が混ざり合う』

1-46 平和を望む少年と、平和を乱す嵐

クロウは占い師の塔にいた。ユシカとグラリアは、占い師の塔の近くにある野外劇場で演劇を観に行っている。
最上階の部屋まで紅茶を持ってきた占い師は、クロウに演劇を観たかったのかを尋ねると、クロウは首を横に振る。占い師は、弟が主役なのに薄情者だと言い捨てた。
占い師は、クレアの体調は風邪だと思いたいと呟く。クロウにとって母クレアの体調は心配だが、今はそれよりも別の用事があるため、クロウは占い師の塔にいる。
占い師は、クロウにだけグラリアの占い結果を話すと言った。なぜクロウだけを呼び出したのかを問うと、占い師いわく、クロウが何者になるか選択を委ねられたときに、占い師と似たような人物に振り回されると予想しているとのこと。そのため、占い師が持つ力をクロウに説明したかったのだ。
占い師は頭にかけるフードを外すと、中に隠れていた細長い耳が露わになる。細長い耳の先は青みがかっていた。これは、天族というルドヴァイア国では珍しい種族とのことだ。

占い師は太陽のシンボルを描き出す。これはグラリアを占ったときにも使った力だ。
占い師はこれを、特異術と呼んだ。特異術のことなら、特別授業の教科書に紛れ込んでしまった資料に概要が書かれていた。
クロウは反射的に「俺はこの島で、この村で、平和に過ごしたいだけです」と答える。占い師に、危険な未来を回避できる可能性を拒むことになってもいいのかと聞かれると、クロウは俯いた。

占い師は、クロウに2つの忠告を送る。
ひとつ。占い師と同じ天族と出くわしたとき、クロウは自分が何者になりたいのかを見誤らないこと。
ふたつ。錨のシンボルの特異術を扱う者が、グラリアを狙っている。

グラリアに万が一のことがあったら……と占い師が答え切る前に、大きな雷が落ちた。続けて、外は大雨となった。

クロウは急いで、野外劇場の様子を見に行く。皆が撤収を進めていた。
撤収最中のクルトを見かけたとき、彼はバランスを崩して倒れかける。危ないと思ったクロウは駆け付け、クルトを支える。
クルトはクロウに感謝して立ち直したあと、もう一度撤収作業に取り掛かろうとするが、クロウはクルトに帰れと強く言う。
クルトが渋るので、クロウはミーナに、クルトをラグナルド家まで連れていくよう頼む。力仕事なら自分の方が向いているからと言った。
ミーナはクルトを支えて歩く。支えて歩くせいか、クルトの歩き方に違和感を感じた。ミーナはクルトに脚のことを尋ねようとした。しかしクルトは、絶対に兄のクロウには弟の脚がおかしいと言わないでくれと言った。

1-47 真実から逃げてきた償い

突然の大雨に、ガルフはルーシェ誕生祭の様子が気になった。しかしセフィル本部を離れることはできなかった。
応接室には、旅商人とその護衛がいる。旅商人は、普段見せないような冷徹な目をガルフに向けていた。

旅商人には、処分してきた禁書と思わしき物の数々を説明してきた。しかしそれでも旅商人は納得していないようだ。
禁書となるものは、まだどこかにある。何が禁書なのかを旅商人ははっきりと言ってくれない。
ガルフはまだ、ユシカの所持品にあった探検の地図を見つけていない。あれが禁書なのかと思い悩んだが、旅商人はガルフに「思いがけないところに、禁書があるかもしれませんよ」と助言のように言う。

連帯責任で、罪人に問われるまで時間がない。そのときに選べる手段は2択。
ひとつ。国の者が尋ねに来るまでに、該当する禁書を燃やすこと。禁書がないことを確認できたら、ルーシェ村は罰金の支払いだけで許してもらえるだろう。
ふたつ。国の者が尋ねに来たときに、誰が禁書を所持しているのか調査を依頼すること。連帯責任は避けられるが、誰かが罪人になるのは確実だ。

国はもう待っていない。ちょうどこちらに向かっているルドヴァイア国からの大艦が、明日には船着場に着くと言った。
禁書についての話を切り上げる前に、旅商人はガルフに、他に隠していることはないかを問う。ガルフは旅商人に、トルニカ島内で見知らぬ者の死体と、死体の荷物から謎の手配書が見つかったことを打ち明ける。
後日、調査に出ていた団員らが何者かに襲撃される事態に遭ったという。襲撃された者たちは手当を施したため命に別状はないが、襲撃してきた残党らを捜すと、その残党らと思わしき死体が見つかった。彼らの荷物の中にも、謎の手配書が見つかった。しかし残党らとの数が合わず、手配書は1枚だけ見つかっていない。

ガルフの話を聞いた旅商人は、ガルフの報告に嘘偽りないと判断した。その残り1枚なら、国から特別派遣された者が所持しているとのこと。そして、彼らが死体姿となったのも、国から特別派遣された者が始末してくれたからとのこと。
最初からこちらを見張っていたのかと、ガルフは静かな怒りを見せる。しかしここでガルフは大きなミスを冒していることを、旅商人から指摘される。
ガルフは手配書の中身を見たことがある。そして、手配書に書かれた姿とよく似た少女が、ルーシェ誕生祭で自由に歩き回り、友達の女の子と一緒に旅商人らに話しかけてきた。
旅商人から、禁書と思わしき物の中で燃やしていないものがあると言われ、それを燃やさなかったのは手配書を把握していながら燃やす判断を下さなかったガルフの責任だと言った。
旅商人はガルフに、国にどちらの選択を取るのかは、禁書を守る自警団の団長に委ねると言い、雨の中だろうとルーシェから去っていった。

1-48 不揃いな真実の襲撃前

ある一室で目覚めた男は、右手を突き出していた。どうやら悪夢を見ていたようだ。たった今向かう島を破壊したら、きっと悪夢を見なくなるだろう。
仮眠を取っていたため、おかしな時間に目覚めてしまった男は、堅苦しい軍服を脱ぎ始める。その軍服は、ルドヴァイアという国らしく、燃えるような赤を基調としていた。軍服をクローゼットにしまったあと、その隣にかけた白衣に視線を配る。
男は、平和な島の最期を〔元部下(元恋人)〕が知る姿で締めることにする。

軍服を脱いでワイシャツ姿になったところで、通信が入る。通信機を取った男は、国の幹部の者であり、海の防衛活動の責任者だと言った。
男と連絡する者は「貴方さえ運命から乗り遅れなければ、ルドヴァイアは脅威から救われるでしょう」とのよう、ユシカが見た夢で聞いた「貴方さえ運命から乗り遅れなければ、この悲劇から抜け出せるでしょう」とよく似たセリフを言う。

男と、男と連絡する者の話だと、確実な禁書は2つあるようだ。
ひとつは、新たな禁書と呼ぶもの。
ふたつは、6年前から〔元部下(元恋人)〕が所持しているもの。

通信を終えた男は、荷物のケースを開ける。その中には、青い液体が入った試験管があった。
男は試験管に入った青い液体をグラスに流し込むと、それを手に持ち窓から外を眺める。海原を行くこの艦は、酷い嵐に包まれていた。
男は、窓に向かって右手を翳し、空中に指先で青い光を引く。しかし力が足りなかったのか青い光は途中で途切れてしまう。
グラスに入った青い液体は、男が描こうとした青い光のよう輝く。男は躊躇わず青い液体を飲むと、もう一度指先で青い光を引いた。
途絶えることなく青い光を引いたあと、その中央には錨のシンボルが浮かび上がる。錨のシンボルを持つ特異術は、荒れ狂う嵐を破壊し、穏やかな夜に変わる。
嵐が消えた海原に、男は、今度こそ乗り遅れることはないだろうと呟いた。