第1幕その9

目次

1-56 封鎖された村

グラリアはルタに連れられ、真夜中に怪しげな森を歩いていた。今では《お化けの森》と呼ばれるほど不気味な森だが、お化けの森の木はルタが目指す場所では大きな役割を果たしている。そこの者たちにとっては敬われる木だという。

不気味で大きな木の下には、下に続く穴があった。驚くことに、穴の中には石の階段があった。足場は悪く、グラリアはルタに「トルニカ島にはルーシェ村以外の村はないはず」と尋ねる。ルタは「トルニカ島で『人が暮らしている村』はルーシェ村だけだ」と答えるが、グラリアは納得しなかった。

穴を下った先には、施錠された大きな門があった。ルタは荷物から鍵を取り出し施錠を解く。その鍵は、祠の洞窟の滝裏に置いてあったことを打ち明ける。あの部屋はルタ以外誰も知らないという。グラリアは村の謎に納得がいくが、一層不安が強くなった。

お化けの森の中にある封鎖された村は、水害によりほとんどの村人が亡くなり、生き残った者は村を捨て出て行ってしまったという。グラリアはルタに、封鎖された村の生き残りは、ルーシェ村にいないのかを尋ねる。ルタは、もし仮に生き残りがいたら自分は生きていないだろうと答える。水害を引き起こし、封鎖された村を滅ぼしたのは自分だと、ルタは名乗り出た。

ルタはグラリアを連れて、ある一軒家に入る。テーブルに置かれたノートを取ると、ルタはグラリアに向かって、この日誌には村が滅びゆくまでが綴られていると告げた。グラリアはルタに日誌の中身を明かされる前に、2つの質問を投げかける。

1つ目の質問は、祠の洞窟の滝裏にある部屋をルタが知っていて、他の誰もあの部屋を知らない理由。
昔、ルーシェに居場所がなかったルタは、あの場所でひとりで暮らしていたという。結果として誰もあの場所を知らない。
ルタは、1つ目の質問の回答の最後に「誰も私の事を覚えてくれてはいない。私の無謀さも、努力も……大切な人のことさえも」という意味深な言葉を添える。

2つ目の質問は、封鎖された村の人々が日誌を遺した理由。ルタは、答えられることは2つあると言った。1つ目の理由は、水害による症状や環境の変化をまとめ、治療を試みるため。2つ目を答える前に、ルタはどこにも逃げも隠れもしないと言って家を出た。ルタに続いて家を出る前に、グラリアは家の中を見渡す。壁には押花にしたシロツメクサとクローバーが飾られていたが、グラリアが少し触れるだけで崩れてしまうほど枯れていた。

1-57 ルタの罪

封鎖された村の人々が日誌を遺したもうひとつの理由を聞くために、グラリアは決心して家を出る。ルタの前に立ったとき、ルタから話を聞く前に理由に気付いた。グラリアはルタを睨み付けながら「誰もあなたのことを忘れていないじゃない」と言うと、ルタはどこか壊れた様子で笑い出す。日誌が遺されたもうひとつの理由は、水害を引き起こしたルタへの復讐のため。ルドヴァイア国にルタを裁かせるため、わざと禁書になりうる歴史を残したのだ。

封鎖された村の天上からは、お化けの森の木が根を伸ばしている。この木々は特殊で、川の水や雨水を浄化してくれるという。木の根を使って村の井戸に水を貯めていたのだが、水害は井戸から始まった。施錠した門の奥で、日に日に人が死に絶えていったと笑うルタは、枯れた井戸に封鎖された村の日誌とルタへの復讐のための日誌を投げ込むと、手持ちのソール(照明)を井戸に叩き付ける。
グラリアには「如何なる理由があろうと、私の罪は変わらない!」と狂ったように笑うルタの声と「私は、死を遂げた彼女のことを英雄と讃えたくない!」と泣き叫ぶルタの声が響く。

グラリアは、燃え上がる日誌と炎、そしてルタの声に気を取られていたが、振り向いたルタがグラリアに短剣をチラつかせたところで、ようやく危機に気付く。
「ルーシェ村で暮らす子どもだったよしみだ。君が世界から隠されてしまっても、私は君を忘れない」

1-58 ルタの償い

グラリアの景色は一瞬で暗転する。全身が冷たい。そして、身動きが取れない。
ふと、ユシカが言っていた言葉を思い出す。「知りたい……というよりも、わけもなく意図的に隠されてしまうことが嫌なのかもしれない」
グラリアは、こんな形で終わってしまったのかと虚しさを感じていたところ、誰かが頭を撫でる。「君を守るために、君を隠したい」
ルタの声だ。今のグラリアには、ルタの声だけが現実を知る術だ。
「表の7時には、ガルフ団長がルドヴァイア国の従順者と交渉する。彼らを私が欺き、罪人を出さずに終わらせよう」
「もし、表の8時になっても私がここを訪ねに来なかったら……奥へと逃げろ。表の9時になっても何も音沙汰がなかったら……当日はずっと身を潜めてくれ」
「グラリアに、私が昔使っていた腕時計を貸すよ。ああ、そうだな……彼からもらったんだっけか。不思議だな、涙だけが零れ落ちるんだ。それに……」
「この腕時計を持っていたら、私はきっと、ルドヴァイア国の従順者を欺けなくなるだろう」

グラリアの手元に、何か冷たいものが置かれた。そして、グラリアではない足音が遠のいていく。
グラリアは、顔を伏せながらも声を振り絞り「待って」と言う。
一瞬だけ止まってくれたルタは、ある一言だけを送る。それでもグラリアには言葉が二重に聞こえた。
「君は、ルドヴァイア国の禁書ではない。私の罪こそが禁書だ」
「命を捧げる事が英雄だと言うなら、今度こそ私が英雄だ」