1-30 ユシカとクロウの間に生じ始める、気持ちの摩擦
シークスが特別講師をする教室では、シークスの怒声が聞こえていた。
最後の授業では反省文を書くはずが、グラリアは勝手に教科書を参考に魔獣を描いたり、クロウは原稿用紙2文字で終わって居眠りしていたり、ユシカは原稿用紙そっちのけでノートに何かをガサゴソと書いたり。
3人ともいい加減だが、シークスの説明によると、反省文といえど公認の教育用の原稿用紙のため、最終的には国に提出するものとのこと。国が教育方針を見直すための参考資料として使うので、とんでもないことばかりを書いていたらさすがに問題になるとシークスは酷く怒っていた。
シークスが怒る最中、グラリアは教科書にあった言葉について質問する。グラリアが読み上げることでシークスが質問に答えようとするが、聞くと内容に違和感があり顔を顰める。シークスはグラリアが使う教科書を覗き込むと、教科書の中には守護団セフィル向けの資料が紛れ込んでいた。シークスはすぐに資料を取り上げる。
シークスが取り上げた資料には、特異術に関する説明が書かれていた。グラリアが読み上げて聞いたのは「特異術とは、シンボルを描いて発動する特殊な力であり、力の性質はシンボルに由来する。シンボルの色は、力の効果や他の力との相性が関係する」とのこと。
ユシカはシークスが取り上げた資料をもっと詳しく知りたいと申し出たため、再びシークスが怒り出してしまう。守護団セフィルとしては学んでほしくないことだろうと、ユシカは必死に食いつく。その様子を、クロウは笑みを消した表情で眺めていた。
1-31 綺麗な水
安全講習を終えたユシカ、クロウ、グラリアは、シークスに連れられラグナルド家に戻る……はずだった。
シークスを引き止めたのは、ユシカとクロウのクラスを担当する教師。グラリアという新しい仲間がやって来たということで、教師はユシカ、クロウ、グラリアを連れて夜の蛍研究を始めると言い出す。
夏季休暇中にわざわざ学校にやってきた教師の狙いにようやく気付いたシークスは、教師の提案を認める。教師と蛍研究を終えたあと、シークスがユシカたちを家まで送り届けると言ったが、ちょうどそのとき守護団セフィルの団員がシークスを呼びに来る。団員から話を伺うと、あとでシークスがユシカたちを家まで送り届けることは難しそうだ。
シークスが困っていたところ、団員の後ろからミーナが現れる。シークスの代わりにユシカたちを送り届ける責任を引き受けるとのこと。しかしシークスとしては12歳の女の子のミーナを夜で歩かせるのは納得いかなかった。するとミーナは少し顔を赤くしながら「クルトも一緒なら安全だと思う」と言う。
シークスの代わりにミーナがユシカたちを連れ歩き、クルトを誘いに行く途中で出会ったミーナの友達まで蛍研究に参加し、クルトを誘い終えたあとにはクロウを虐めていた集団やユシカの女友達とまで鉢合わせて参加することになる。随分賑やかになったメンバーで、教師が待つルーシェの野外劇場まで向かう。
ルーシェの野外劇場は、普段ルーシェ誕生祭で使われる。ルーシェ誕生祭が延期になったことで、再開までは自由に行き来できた。村を守る板塀越しだがルーシェの野外劇場の近くに川が流れているため、守護団セフィルに同行を依頼し川まで向かわなくても蛍を見れるとのこと。
蛍が現れ始める日没までまだ少し時間があるため、ミーナはクルトを連れて舞台まで上がる。今までの劇の中で今年が一番いい劇になるように目指そうと意気込んだ。しかしクルトはやる気がなさそうだったためミーナは怒り出し、かつての木役のクロウを指差して煽る。
木役のクロウの話題が入ると、クロウを虐めていた集団やユシカの女友達まで便乗してしまう。大騒ぎの最中にいるクロウは混乱していた。その様子を端から眺めるグラリアは心配していたが、ユシカは「今のクロウが一番楽しそう」と言って笑いながら眺めた。
ユシカがこんな調子なのでグラリアは教師を呼ぼうとしたところ、振り向く途中で光を見た。その光は蛍が発するものだった。
蛍の登場に教師は興奮してしまい、また別の騒ぎとなる。日没を迎えると蛍は次々と現れ、クロウの周りで騒がしい子たちも蛍の登場に夢中になる。
初めて蛍を見るグラリアも、綺麗な景色に心を奪われていた。しかしひとつだけ赤い光を放つ蛍を見つける。赤い光が気になったグラリアは、それを追いかけて皆からはぐれてしまう。ようやく赤い光を捕まえたところで、グラリアははぐれてしまったことに気付く。グラリアの目の前には塔があった。
塔の中からは、ローブに身を包んだ老婆が出てくる。この塔は老婆の家らしい。グラリアは老婆に誰だと尋ねると、老婆はルーシェ村の占い師なので、占い師とでも呼んでくれと言った。
グラリアの手にある物を見た占い師は、赤い光に向かってグラリアの仲間を連れてこいと言った。赤い光は占い師の頼みに従い、グラリアの手元から離れる。
蛍は綺麗な水辺を好む。その上で占い師は、グラリアにある言葉を投げかける。
「井戸の水が一番綺麗。ひとつひとつの小さな謎が明らかになるにつれ、いずれ大きな真実が姿を現し、平和を滅ぼしてしまうかもしれない」
「それでもあんたは、真実の扉を開けることを厭わないかい?」
占い師の言葉に、グラリアはポケットにしまっていた絵を取り出す。オリヴィアたちが描かれたこの絵だけは消えていない。決意して頷いたグラリアは、占い師が暮らす塔の中へと入る。
1-32 真実を知る覚悟と責任
占い師の家で、グラリアは占い師から出された紅茶をいただく。占い師が言うには、この紅茶はルタが気に入っているとのこと。
グラリアは、保健室でルタに「君が認めないかぎり、君をこの島に置くわけにはいかない」と言われたことをまた思い出してしまう。あの言葉は、グラリアの心に滲むような棘として刺さっていた。
グラリアは占い師に、ルタは何者なのかを尋ねる。
ルタは元守護団セフィルの団員。守護団セフィルを脱退したあとは、『自分の夢のため』学校の養護教諭になった。占い師の説明に、グラリアは「違う」と呟く。
グラリアの反応に何が違うのかと訊くと、グラリアはルタがある男性のことを待っていないかを占い師に尋ねる。
占い師は、煙草で一服したあとに「あたしをルドヴァイア国の罪人にされたらたまったもんじゃないから、右も左もわからない小娘には答えないよ」と回答する。
知るために何か手段がないかを考えたグラリアは、グラリアのポケットに残っている絵のことを思い出す。しかしあの絵について占い師に尋ねたところで、今と同じようにかわされてしまうだろう。
占い師は、ヒントを零すように「知る覚悟があって、真実の扉を開ける責任が生まれるのさ」と呟く。ヒントを聞いたグラリアは、シザール文字の読み書きを教えてほしいと占い師に頼む。グラリアの目を見た占い師はニヤリと笑い「気弱な女の子が、またうちを尋ねにきたみたいだ」と言う。グラリアは続けて、気弱な女の子が誰を指すのかを尋ねようとしたところ、占い師とグラリアがいる部屋の扉をノックする音がした。やってきたのはユシカだった。
グラリアは、どうしてユシカだけなのかと尋ねると、ミーナに自分たちを捜索させないためにクロウをカモフラージュとして置いてきたという。
ユシカのやり方に「強気だねぇ」と呟いた占い師は、席を立って杖を前に掲げると、空中に文字を描いた。描いたのはシザール文字だった。占い師は、書いたシザール文字を発音し、同時にシザール語を教える。
「シザール文字とシザール語の基礎は至って簡単さ。だけども応用は難解で、統制を掲げるルドヴァイアという国ですら困らせるものなんだよ」
しばらくして、ミーナが占い師の塔までやってくる。ユシカとグラリアがいる場所までミーナがやってきたちょうどそのときに、シザール文字とシザール語の基礎を学ぶ講習を終えていた。
ミーナは、占い師がグラリアにシザール文字やシザール語を教えていないかと問い詰め、もし教えていたら父ガルフに言いつけると言った。しかし占い師は「あたしがシザール文字やシザール語を教えた証拠がどこにある?」とあしらう。怒ったミーナはグラリアに向かって「ユシカお姉ちゃんもグラリアお姉ちゃんも、シザール文字やシザール語を使って罪人になってしまうのは絶対に嫌なんだよ!」と忠告する。
ミーナとともに占い師の塔を出たユシカとグラリアは、ラグナルド家を目指す。クロウはすでに帰ったとのことだ。
家に着くと、クルトが慌しい様子で玄関まで出てくる。グラリアを見て動揺し転んでしまうが、立ち上がったら用件を、クレアの手伝いをしてほしいことを伝える。
1-33 クロウの迷い
ラグナルド家でアップルパイを一口食べたクレアは、これでようやくひと段落ついた気持ちだとため息をつく。
本日、戻ってきた子どもたちとクルトのためにアップルパイの準備をしていたクレアだが、差し込みの用事が立て続けに入り込み、夕食の準備もままならなかったという。
急遽薬を用意するのに水を大量に消費したため、気付けば夕食で使う予定の水がなくなっていたという。クロウは守護団セフィルの許可なく外出できないため、クルトが急いで井戸水を汲んできた。
慌てすぎたクルトはクルトで、何度か転んで膝を擦りむいていた。クレアはクロウに、クルトの怪我に響かないよう家でできることはなるべくクロウがやるようにと伝える。クロウはクレアに明日出かけるのかと訊くと、緊急で守護団セフィルに同行しなければならなくなったようだ。
今までクレアは、守護団セフィルに同行することがなかった。クレアの話を聞いて不安になったクロウを瞬時に察してか、クレアは「こういうことは、ロルと夫婦になる前にたくさん経験してきたから慣れているわ」と笑う。
本日特別授業を終えたあと、しばらくは自宅で宿題をしなければならない。宿題は次の特別授業で提出するが、勉強が苦手でやる気が出ないクロウはどうしようかと自室で考えていたところ、グラリアがクロウの部屋を訪ねにくる。グラリアがラグナルド家の一員になったといっても、まだ異性であることを意識してしまうクロウは、グラリアが座るスペースを作るため慌ただしく部屋を片付けるが、鈍臭くタンスに体をぶつけ、タンスの中にしまった服がクロウの上に傾れ込んでしまう。クロウを救出するためグラリアはクロウの服を片付けようとするが、服の山の中から伸びて来た手がグラリアを引き止める。服の中からは「こういうのは自分でやるから!」ともごもごとした言葉が聞こえた。
服の山から脱出したクロウは、自力で服をタンスの中に片付ける。グラリアはクロウの様子を微笑ましく眺めていた。
グラリアはクロウに、今日の蛍研究は楽しかったかを尋ねると、クロウは「全然」と答える。グラリアは驚くが、クロウが続けて「楽しくはなかったけど、悪い気はしなかった」と言ったところで穏やかに微笑み「よかった」と言う。
事態が落ち着いたところで、クロウはグラリアが部屋を訪ねた理由を問う。
グラリアはクロウに、グラリアが見つかった場所はどんな場所だったのかを尋ねる。
クロウは、グラリアが倒れていたところを見ていない。そのため、当時の探検について覚えているかぎりを話す。
クロウの話を聞いたグラリアは、グラリアが持っていたシザール文字が書かれていた紙は当時探検の宝の地図だったと知る。
その紙なら持っていると言おうとしたが、クロウがユシカに対する話をしたところで口を噤む。
「ユシカは、いい奴だよ。あいつにも友達がいるのに、俺みたいな奴と関わってくれる」
「ユシカと一緒にいると楽しいんだ。時々危ないことをするユシカを心配しても、結局は俺だって楽しんでいる。でも、探検から帰ってきたあと、右手が動かなくなったユシカを見たときは……」
クロウが大事なことを言おうとしたところで、風呂上がりのユシカがクロウの部屋に入り込んできた。
クロウは「シークスさんじゃないんだから、ノックくらいしてくれよ」と呟くが、ユシカが持って来たノートを見て感情を潜める。公認の教育用のノートだが、自主学習のように見せかけて暗号を仕掛けた祠の遺跡の地図だった。シザール文字が書かれた宝の地図を紛失したから、今覚えているかぎりの道順をメモしたとのことだ。明日はクレアがいないし、クルトに頼んだら協力してくれるとのことだからとユシカは探検の話を持ち掛けるが、クロウはユシカに「そんなに探検がしたいのか?」「一時的でも、右手が動かなくなったのに」と不満を零す。
ユシカは理由を告げずに頷く。クロウは迷いながらも自分の気持ちを告げようとしたとき、グラリアの言葉に遮られる。
グラリアは、宝の地図を提示しながら「ふたりが探検に行くなら、私も一緒に連れて行ってください」「私はここに、ルーシェにいたいから、自分のことを知りたい」と言う。
1-34 グラリアとオリヴィア
クロウから話を聞いたグラリアは、ひとりで祠の遺跡に向かおうと考えていたようだ。しかもユシカと同じで、クレアが不在の明日を狙っていたようだ。
何でそんな危険を冒してまで、とのようクロウが呟くと、宝の地図のある変化が視界に入る。クロウはユシカに、宝の地図には何が書かれているのかを尋ねる。
宝の地図に書かれたシザール文字について。
ユシカには「私は、そのペンダントの力に圧倒され」と読めた。これは、ユシカが探検するときにだけ読める言葉だ。
クロウには「国民になれる日を待ち焦がれながら衰弱し、いずれは君を置いて亡くなるだろう」と読めた。これは、ユシカが居なくなった場所まで導いてくれたときに読めた言葉だ。
グラリアには、ユシカとクロウとはまた別の言葉が読めた。「オリヴィア。私の日記の最後のページに、大事な紙を挟んでおいた」という言葉だった。
続けてグラリアは、もう1枚の紙を、絵が描かれた紙をユシカとクロウに見せる。描かれているのは、オリヴィアと彼女の母親、彼女の祖母だと説明した。
そして、絵の裏に書かれていたシザール文字を答える。「オリヴィア・グリシッド」。ユシカとクロウにも同じ内容に読めた。
グラリアは、最近見た夢についてもユシカとクロウに打ち明ける。まるでグラリアがオリヴィアになったように、一部のシーンを見るような夢だったという。ユシカが読んだ言葉は、おそらくオリヴィアの祖母のもの。その言葉はグラリアの夢だとシザール語で聞いたが、占い師からシザール文字及びシザール語を学ぶ前だったので、言葉を聞いたばかりの頃は意味がわからなかったという。
クロウが読んだ言葉は、知らない男から聞いたものだった。男の話を聞くだけで悪寒が走ったという。その男はのちの夢で挙式の話をしていたが、当のグラリアは挙式が何かを知らないため、男から聞いたことを淡々と伝える。ユシカとクロウには察しがついたため、オリヴィアは非合意でその男と挙式をあげる直前だったと理解する。
グラリアは、自身の胸元にある水晶のペンダントを掴みながら、絵の中の、オリヴィアの母が身に付ける欠けた水晶のペンダントを指差す。ユシカとクロウに、同じようなアクセサリーを他の人も身に付けるのはなぜかと理由を問う。ユシカは「代々私たちを守ってくれたのもまた、強大な力なのだから」と呟く。その言葉は、ユシカの右手が一時的に動かなくなる事態を招いた探検で初めて聞いた言葉だった。クロウはユシカに祠の遺跡での出来事を覚えているのかと訊くと、わからない、でもふとこの言葉が出てきたからもしかすると少しずつ思い出せてきているのかもしれない、とのようユシカが回答する。
ユシカは、左手首にあるリストバンドをギュッと握る。その状態のまま、「代々私たちを守ってくれたのもまた、強大な力なのだから」という言葉をもとに、同じようなアクセサリーを子孫に継ぐかもしれないと回答する。
ユシカの言葉を聞いて、グラリアは確信する。グラリアの夢の中でも、オリヴィアの母はオリヴィアに欠けた水晶のペンダントを譲っていた。
もしかするとオリヴィアは、グラリアの先祖かもしれない。しかしそれでは納得いかない部分が残る。
オリヴィアの母が身に付けるのは、欠けた水晶のペンダントだ。対してグラリアが身に付けるペンダントの水晶には、傷ひとつない。
しかし、オリヴィアに関することを探れば、グラリアが失った記憶に繋がるかもしれない。今回の探検はクロウも認めたが、クロウは1つだけグラリアに尋ねる。
宝の地図も、オリヴィアが描かれた絵も、なぜグラリアが持っていたのか。返答に困ったグラリアは俯く。
苦笑いを浮かべたクロウは、グラリアの肩に手を置いて「グラリアの記憶の手がかりになるものを、一緒に探しに行こう」と告げる。
1-35 欠けた手がかり
グラリアは自室のベッドに寝転がりながら、オリヴィアが描かれた絵を眺める。宝の地図の方はというと、一旦ユシカに返した。絵の中の、オリヴィアの母の胸元にある欠けた水晶のペンダントを見たあと、オリヴィアのヘアピンを見る。オリヴィアのヘアピンは、別の紙に描かれた長髪の男性も身に付けていた。長髪の男性は昔のルタと一緒にいたが、今のルタは長髪の男性のことを覚えていない。
グラリアは絵を抱きしめながら目を閉じる。保健室でのルタの言葉を思い返す。
「ルーシェの、トルニカ島の平和のため、グラリアを追放しなければならない時が訪れるかもしれない。もしもの時には、ご覚悟を」
「音沙汰は無くなったが、彼はきっと生きている。落ち着いたら、いつかこの島に来ると信じているよ」
「君が認めないかぎり、君をこの島に置くわけにはいかない」
「ユシカの右手を正常にしたのは、君じゃないのか?」
「今はどこにも見当たらない錆びた鍵は、ユシカの右手の回復とともに消失したんじゃないのか?」
「君にある特別な力を抑えないと、トルニカ島は平和でなくなる」
グラリアが知りたいのは、単なる記憶だけでない。手配書を見てグラリアを追放する話と繋がる特別な力の正体だ。
穏やかな寝息が聞こえる頃、絵の裏に書かれたシザール文字が青く光りだす。再び夢に誘われるように、青い光はグラリアの水晶のペンダントと共鳴する。
1-36 気弱な少女とお医者さん
グラリアの夢の中は、ぼやけた景色に切り替わる。
グラリアの体だけが動作を覚えているように、テーブルに手を伸ばす。テーブルに置かれた何かが顔面に装着されると、視界は一気に鮮明になる。
誰かの姿のまま夢を見るグラリアは、襤褸い小屋のソファーで横になっていた。両手を見ると、今のグラリアの体はどことなく固い体付きをしている。
テーブルの上には、顔面に装着したもの以外にも、2本のヘアピンが置かれていた。グラリアはそれに手を伸ばそうとしたが、グラリアではない誰かがヘアピンを拒絶し手を引っ込める。
オリヴィアのときのように鏡はないだろうかと部屋を見渡す。部屋の中は整っているのに、壁や家具は部分的にボロボロだった。部屋の隅に布が被った姿見を見付けたが、布で隠れていない部分ですら黒ずんでいて、とても使えそうにない。
コンコンと、誰かが小屋を訪ねにくる。扉を開けると、そこには幼い少女が立っていた。
グラリアの体は勝手に動き出し、幼い少女に向かって手を差し出す。少女は片手に持った小袋をグラリアに差し出す。その袋の中には、拾い集めた銀杏の実が入っているらしい。
何者かが「えーっと、今回の君は、幼馴染の男の子とどんな喧嘩をしてきたかな」と幼い少女に尋ねる。グラリアは周りに誰かいないか確かめるが、グラリアと幼い少女以外誰もいなかった。
幼い少女は答えるのが怖いのか、体をふるふると小刻みに震わせている。「それでは、銀杏の代わりに診察券を出しなさい」とのよう再び何者かの声が、今度は穏やかな声色で聞こえてきた。声に続けて、グラリアはもう片手を差し出す。何者かの正体は、誰かの姿のまま夢を見るグラリアにとってその誰かのようだ。
幼い少女は、グラリアに向かって紙を差し出す。それは探検で使用する宝の地図だった。
グラリアを『お医者さん』と呼ぶ幼い少女は、喉が痛いと言った。「お水のせいじゃないわ。こわくて、声が出なくなって、それで、それでね」と症状を言ったあと「自分を信じれなくなったの」とグラリアに抱き付いてきた。