1-19 クロウがクラスメイトから虐めを受ける理由
シークス同伴でクロウの家まで戻ったユシカ・クロウ・グラリアだったが、ルーシェ村の浜辺まで来て遊んでいた。もちろん、シークスも同伴だった。クレアからの提案で今日1日は外で遊ぶことになり、ユシカとグラリアは裸足になって浅瀬ではしゃいでいた。クロウはというと浜辺で見守るシークスの隣にいて、ふてくされながら昼食用のパンを食べている。
クロウがシークスに不満を垂れていると、不幸にも不満の対象が堤防に現われる。学校でクロウを虐める集団は、ユシカたちに野次を飛ばす。クロウが怯えているところ、集団のうちのリーダー各の少年はユシカをターゲットに煽って喧嘩を売る。お互いが煽り合ううちに、少年はユシカの態度が気に入らないからユシカと仲がよいクロウをからかっていたことが判明し、ユシカが少年を強く煽ると取っ組み合いに発展した。シークスはユシカと少年の喧嘩を止めに入り、ふたりに説教する。
1-20 ルーシェ村の海と浜辺
夕方になり周りが暗くなり始めてきたため、シークスは海辺にいるユシカとグラリアを呼ぶ。浜辺まで戻ってきたユシカは、ルーシェ村の海から見える、村の外にある建物について尋ねる。シークスはその建物を見ながら、今はもう使われなくなった灯台だと言ったが、どこか言い悩む様子があった。灯台から目を逸したシークスは今度、ルーシェ村の海を見つめながら、ユシカたち3名にはどこにも書き記さないことを条件に、トルニカ島について話し始める。
トルニカ島は、ルドヴァイア国の最南端にある。今眺めるルーシェ村の海は南の方角になるとのこと。ルーシェ村の海をより南に進むと、ダークフロンティアという領域に入ってしまう。ダークフロンティアは真っ暗闇の空間で、暗闇をより先に進んでしまうと消えてしまう。
ダークフロンティアについて、シークスは父から話を聞いたという。父は男手一つでシークスを育てながらともに放浪の旅をしたが、旅の途中で亡くなってしまった。ルーシェの村の誕生を祝うお祭りで開催する演劇の内容も、父から聞いたお伽噺を元にしているという。
ルーシェ村の誕生を祝うお祭りでは、その年に12歳の子たちが演劇する。今年はクロウの弟のクルトや、ガルフの娘のミーナの学年が演劇する予定だ。演劇の台本は用意せず、口頭で聞いたストーリーを元に自由に演じるため、面白可笑しい劇になった年もあるらしい。面白可笑しい劇をしてしまったクロウは苦笑いを浮かべるが、ユシカはクロウの手を引いてともに演技を始める。当時も今も王子役を演じるユシカは演技が上手いが、当時は木役を演じて今は姫役を強いられるクロウの演技は拙く、演技のあとには浜辺に倒れ込んでしまう。
演技のあと、ユシカは海をじっと見つめる。ユシカはこの海を渡って『岸辺』に流れ着いたことと、同じ海を渡って宝の地図が流れ着いたことを呟く。ユシカも宝の地図も同じように、正体がわからないまま緩やかに時間が過ぎていくことを憂いた。
シークスはクロウの代わりに、今のユシカの家族ではユシカの心に空いた穴は埋まらないのかを尋ねる。ユシカからの返答はなかった。
1-21 燃やされないままの宝の地図
今日1日を過ごしたグラリアは、寝る前に枕の下に隠した宝の地図を確認する。宝の地図に書かれた文字(シザール文字)は読めないままだ。グラリアは本棚から本や書類の用紙を取り出し、文字の特徴を比較する。グラリアには、本や書類の用紙に書かれた文字を読めた。本や書類の用紙には、歯車の刻印があった。対して、宝の地図の文字は読めないどころか、歯車の刻印がない。
グラリアは再び枕の下に宝の地図を隠す。明かりを落として眠りに入ると、グラリアが使う枕に青い光が映り込む。青い光はグラリアが身に付ける水晶のペンダントと共鳴し合っていたが、しばらくすると赤い光に切り替わり、水晶も光らなくなる。赤い光に変わったとき、グラリアは苦しそうな寝息を零しながら、枕をぎゅっと握りしめていた。
1-22 2度目の悪夢
夢の中で目覚めたグラリアは、鏡台の前に座っていた。グラリアの後ろにいたクレアは、グラリアの髪をブラシでとかす。クレアから、最後に前髪を整えると言われて目を閉じる。終わったと言われて目を開けると、グラリアではない美しい少女が鏡台の前にいた。そして、少女の後ろにはクレアでない女性が立っていた。
女性は、欠けた水晶のペンダントを身に付けていた。
女性は少女に「オリヴィア。あなたは私と……お母さんと違って美人さんだから、付き合う相手はしっかり見極めないと駄目よ」と語る。続けて、身に付けていた水晶のペンダントを外す。女性はそのペンダントを代々受け継ぐものと呼び、女性の母から授かったように娘にも授けた。
ペンダントを身に付けた途端、オリヴィアという美しい少女の姿をしたグラリアの景色は再び変わる。グラリアは見知らぬ男と会食をしていたが、男からオリヴィアという名前で呼ばれた途端、グラリアに悪寒が走る。男の声は、オリヴィアにペンダントを授けた老婆が亡くなったときに聞いた声と同じだった。
男は、オリヴィアの姿をしたグラリアに挙式の話をする。めでたいはずの言葉の裏には、毒々しい言葉が混ざっていた。グラリアの頭には表の言葉も裏の言葉も響き、気分が悪くなったグラリアは顔を伏せ、吐き出してしまう。その後、物音がしてグラリアが顔を上げると、気を失うように会食テーブルに顔を伏せた男と、出口の扉を開けてグラリアを待つ男性がいた。
グラリアは男性のもとまで行くと、男性はグラリアを抱き締める。突然抱き締められたグラリアだが、不快な気持ちにはならなかった。男性が離れると、グラリアはオリヴィアの祖母の形見を持たされる。その形見とは、シザール文字が書かれた紙だった。このシザール文字には、他にない特殊な力があるようだ。男性は、君はひとりではない、助けを願うときに形見を使うようにとグラリアに言うと、オリヴィアの祖母の形見をグラリアの右手に握らせた。男性は最後の別れの間際に「オリヴィア。愛する人と結ばれなさい」と告げると、グラリアの背中を出口に向かって押す。出口の光に包まれたグラリアは、夢から覚めた現実にいた。
グラリアの右手には、シザール文字が書かれた紙が、今のユシカにとって大事な宝の地図があった。
1-23 ルーシェの学校に向かうまで
ラグナルド家で朝食を終えたユシカ、クロウ、グラリアの3名は、シークス同伴でルーシェの学校に向かっていた。ユシカたち3名は制服姿だった。夏休み中に制服を着るなんてまるで見世物だとクロウは嘆くが、そんなクロウにユシカは「いじめられたくないなら堂々としなさい」と注意する。手が出る喧嘩は褒められることではないがユシカの言うとおりだとシークスも同調した。
グラリアはというと制服のスカートが慣れないためか、スカートを掴んでパタパタとし始める。ユシカはグラリアの手首を掴んで「下にスパッツを履いてるけどそれはやっちゃだめ」とスカートを広げさせないようにした。グラリアは理由をわかっていない様子だった。
ユシカとグラリアのやり取りを眺めたシークスは、苦笑いを浮かべながら、あとでクレアに相談すると呟く。
校門の前には、ユシカとクロウのクラスを担当する教師がいた。教師は夏季休暇中だが今日は特別にやって来たとのこと。教師はグラリアに、夏休みが明けたらユシカとクロウのクラスにグラリアが入ることと、ルーシェで不審者を見掛けたら大人に相談か、万が一本当にまずいことになったら噛み付くことを説明する。教師の話を傍から聞くシークスは微妙な反応を示して話に突っ込もうとするが、突然学校のチャイムが鳴って話題が止まる。夏休み中でも今日だけは特別にチャイムが鳴るよう学校側が準備してくれたようだ。
チャイムの音に続いて、ユシカたちとシークスは教師に押されて校舎に入る。
1-24 特別講師シークスによる安全講習
ユシカ、クロウ、グラリアの3名は、ユシカとクロウのクラスの教室に着く。ユシカとクロウは普段の席に、グラリアは担当教師に新しい席まで案内される。シークスは寄る場所があるから先に教室に行ってほしいと伝える。
教師から、本日は安全講習のためシークスが特別講師になるとユシカたち3名に言った。ルドヴァイア国では18歳まで学校に通う権利があるが、高度な授業や専門分野を学ぶ学校となると授業態度や成績、日頃の行ないによっては退学になるという。
教師が去ってから少し経って、特別講師のシークスがやってくる。シークスが来るまでの間に、ユシカはグラリアの隣の席まで勝手に移動していたが、シークスから「私語に繋がるから机は動かさない」と注意される。
ユシカが不満そうに口を尖らせてきたところで、シークスは黒板に「反省を踏まえた講習」とでかでかと書く。ユシカは仕方なく元の位置に戻る。
シークスは、安全講習のために用意してきた教科書を配ると、クロウが居眠りを始めようとしていたため、シークスは「講習が終わるまで自宅には帰さない」とクロウに釘を刺すと目覚めてくれる。
シークスは最初に、ルドヴァイア国の統制について話す。その後、禁書という法律が生まれたことについてや、法律に従いやってはいけないことを解説する。
1-25 謎の手配書
ガルフは祠の遺跡まで向かう。死体の所有物と思わしきものが見つかったとのことで、その中に禁書がないかを調べようとした。
死体が所持していた物は確認次第全て燃やして処分する。荷物は武器や食料といったものがほとんどだが、死体の所有物の特徴を見たガルフは死体の正体に強い違和感を抱いた。その違和感は後ほど決定的なものへと変わる。
所有物の中には、一枚の紙が紛れていた。その紙には、懸賞金と思わしき額の記載と、グラリアのものと思われる似顔絵が書かれていた。
ガルフとしては、旅商人から禁書の所持を疑われていることもあり、認可証明がない本や紙は今すぐ燃やしたいが、内容が内容なだけに無視しきれず、他の団員には隠して手配書を持ち帰る。
1-26 創造界の種族について
ルドヴァイア国についての説明を終えたシークスは、次にルーシェ独自のルールをユシカたちに教える。ルーシェから外へと無断で行ってはならないこと。外出するには、守護団セフィルの団長ガルフか副団長シークスの承諾を得た上で、護衛のための団員を同行させること。ルールを述べたシークスは、ユシカたちにルールを復唱させる。
次にシークスは、ルーシェの外には人に危害を加える魔獣がいる話をする。魔獣は、見掛けた人を敵や餌だと判断し襲いかかる危険生物であることと、種族でいうと特に人間が狙われやすいという。そのときグラリアは種族とは何かを問う。
シークスはグラリアの目を見たあと、グラリアの耳を確かめる。グラリアの瞳孔は円形で耳は尖ることも長くなることもないため、グラリアの種族は人間だと答える。
シークスはグラリアに自身の瞳を見せる。シークスの瞳孔は四角形だった。そして、シークスの耳の先は尖っていて上向きに伸びていた。四角形の瞳孔は妖族という種族が持つものという。ただし、妖族には2種類あり、シークスのような耳の形を持つ者は妖族以外の血が混ざった妖族の特徴で、紛い物妖族と呼ばれる。紛い物妖族は、純潔の妖族の間で差別されているという。
続けてグラリアは、なぜ最も人間が魔獣に狙われやすいのかを聞くが、シークスは答えてくれなかった。
1-27 平和の裏の調査
ルドヴァイア国についての授業と、ルーシェについての授業を終えたところで、シークスはグラリアに保健室に向かうよう指示する。グラリアだけは別で、保健室にいるルタとの特別授業があるという。グラリアがいない間、ユシカとクロウはこの前の抜き打ちテストの返却と、テストの結果に伴う追加授業があるとのこと。ユシカのテストの結果については問題なかったようだが、クロウのは酷かったため追加授業が発生した。
ユシカはグラリアとの同行を申し出たが、シークスからの許可は出なかった。そのため、クロウが受ける追加授業をついでに受けることにした。
保健室に向かったグラリアは、保健室の扉の前で足を止める。保健室の中はやけに静かだ。
誰もいないのだろうかと思いつつも保健室の扉に触れると、カチャっとした音が鳴る。扉を開けるにしては妙な音な気がしたが、グラリアは保健室の中で大人しく待つことにした。
保健室の部屋の中を見渡していると、グラリアが身に付ける水晶のペンダントが光った。水晶のペンダントは、保健室の本棚のある一冊を光差す。グラリアがその本の中身を確認すると、中にはシークスから学んだようにルドヴァイア国から認可された国章があった。表題を見るかぎりだと専門書のため、グラリアはルタなら理解できるだろうと思いつつも開いてみると、2枚の紙が見つかった。
2枚とも、スケッチで描かれた絵だった。1枚目は、昔のルタと思わしき人物と、その隣に長髪の男性と癖っ毛の女性が立っていた。もう1枚の紙には、グラリアの夢に登場したオリヴィアという少女と、オリヴィアの母親、オリヴィアの祖母が描かれていた。オリヴィアの母親は、欠けた水晶のペンダントを身に付けていた。
2枚の絵を裏返してみると、そこにはどちらも異なるシザール文字が書かれていた。グラリアには読めないが、2枚ともルドヴァイア国の認可証明がないことを確認した。
2枚の絵は禁書となりうるものだと理解したグラリアだが、なぜこの2枚の紙がルタしか読まなさそうな本に挟まれていたのかわからず、2枚の絵を見比べようとしたところ、保健室の外から声がして咄嗟にベッドの下に隠れる。
保健室の扉が開くと、ルタがガルフを連れて保健室まで入ってくる。ルタは施錠をし忘れていたと言った。
状況が掴めないグラリアだが静かに様子を伺うと、ルタはグラリアが来るまでの間にガルフの用件について整理したいとのこと。ルタもガルフもグラリアが隠れていることに気付かないまま、ルーシェ村は旅商人から禁書の所持を疑われていることと、祠の遺跡で見つかった遺体の荷物からグラリアの手配書と思わしき紙が見つかったことを打ち明ける。
ガルフから手配書を預かり中身を見たルタは、すっと雰囲気が変わる。決してルーシェの子どもたちには見せないような、どこか冷酷ともいえる雰囲気だった。冷酷な雰囲気のまま、ルタは「ルーシェの、トルニカ島の平和のため、グラリアを追放しなければならない時が訪れるかもしれない。もしもの時には、ご覚悟を」とガルフに話す。
手配書をガルフに返したルタは、その手配書を禁書として燃やしたあとルーシェ誕生祭を開催することを提案する。旅商人には、ルーシェ誕生祭のときにルーシェの民は禁書を所持していないことを証明すればいいとのこと。
ガルフはルタの提案に合意するが、手配書だけでなくユシカたちが宝の地図として使っていた紙も、見つかり次第燃やすつもりだと話す。禁書と見なされる可能性があるものは、旅商人が来る前に全て処分したいとのことだ。ガルフの話にルタは静かに同意した。
このあとグラリアと話す予定のルタは、手配書と関係することでグラリアが何か知っていないかを、まずは周りをつつくように聞いていくとのこと。一応ルーシェ誕生祭を開催するときまでは、手配書を燃やさず置いといてほしいとガルフに頼む。状況によっては、グラリアの正体を突き止めるために直接手配書を見せる必要があるからだ。
グラリアが来るまでに用件を終えたガルフは、少しだけ気を楽に、ルタと雑談する。盗み聞きするグラリアとしてはなんとなく、ガルフはルタに好意を寄せていそうだと思ったが、ルタにその気はなさそうだ。この手の話題を、いつもルタはのらりくらりとかわしていたようだが、今回はルタから自身の気持ちを仄めかす。
「ガルフ団長……気持ちは大変嬉しいが、私はまだ希望を失っていないんだ」
「音沙汰は無くなったが、彼はきっと生きている。落ち着いたら、いつかこの島に来ると信じているよ」
1-28 危険な者と、秘密を暴く者。そして……
ガルフが去ったあと、ルタの様子はまた変わる。冷酷な雰囲気のときと同じだった。
ルタは何かを決意して、本棚からある本を取り出す。その本は、先ほどグラリアが手に取った本だった。
ルタは本の中に何があるのかを知っている様子で、該当のページを開くが、そこにはルタが求めていたものが見つからなかった。
ルタに強い焦りが見られた。グラリアは、手元にあるうちの1枚の絵を見る。ルタの気持ちを打ち明けた話を思い返すと、オリヴィアと同じヘアピンを身に付ける長髪の男性が気になった。
絵を確認するグラリアの動作で音を立ててしまったのか、ルタはベッドの下の気配に気付く。ルタに現れろと言われたグラリアは、ベッドの下から出てくる。ルタは、グラリアの手にある2枚の絵を見て険しくなる。
なぜその2枚の絵を持っているのかを問われたグラリアは、ルタの手にある本が床に落ちていたから、拾って本棚に戻そうとしたら、中から2枚の絵が出てきただけだと嘘をつく。
なぜベッドの下にいたのかを問われたグラリアは、本を本棚に戻したあと、保健室の外から物音がして、咄嗟に隠れてしまったと本当のことを言う。
グラリアが嘘をつくときと本当のことを言うときとの様子が露骨だったのか、ルタは「2つの質問のうち、嘘をついたのはどちらだ」と尋ねる。グラリアは返答に迷い口篭らせていると、ルタは強い言葉をグラリアに向ける。
「君が認めないかぎり、君をこの島に置くわけにはいかない」
ルタは片手に短剣を抜く。「なぜベッドの下にいたのか」という質問に対しグラリアが本当のことを答えたと見たルタは、ルタとガルフの会話をグラリアが盗み聞いていたという前提で「私は、平和のためならリスクの少ない最善策を取ろうとするガルフ団長とは違う」と短剣を強く握る。
グラリアは泣きそうな顔で「違う」「追放しないで」とルタに訴えると、ルタはグラリアの記憶にないことを見透かすように問う。
「ユシカの右手を正常にしたのは、君じゃないのか?」
「今はどこにも見当たらない錆びた鍵は、ユシカの右手の回復とともに消失したんじゃないのか?」
「君にある特別な力を抑えないと、トルニカ島は平和でなくなる」
グラリアは背を向けて保健室から逃げようとしたところ、グラリアの背後に立っていた何者かが彼女の肩を持って引き止める。その者は、ラグナルド家の庭で見かけたときの、青い衣を纏う者だった。
青い衣を纏う者は、ルタと目が合う。その者の目を見たルタは、酷く怯えたように「誰? 貴方のことを、私は思い出せない」と呟く。その瞬間、3名の床下に黄金の光が現れる。
青い衣を纏う者は、グラリアに対し、今すぐ2枚の絵をポケットに隠すよう命じる。グラリアは急いでポケットにしまおうとするが、手が滑って1枚だけ床に落としてしまう。
グラリアは落ちた1枚の絵を拾おうとするが、青い衣を纏う者はグラリアを抱え上げる。1枚の絵の回収は、黄金の光の力の作動までに間に合わなかった。
黄金の光の力の作動と同時に、青い衣を纏う者は青い光の力を使う。青い光の力には、時計のシンボルが映し出されていた。
青い光の力のおかげで、青い衣を纏う者とグラリアは黄金の光の力から身を守ることができたが、ルタは黄金の光の力に呑まれてしまう。そんな彼女を見て、青い衣を纏う者は寂しそうに呟く。
「ルタ。今の私には、私さえ忘れた君を、その輝きから守る事は出来ない」
「この島は、平和に愛されている。然し、偽りの平和のままでいては、いつかは真実に滅ぼされてしまう」
1-29 掻き消された記憶と記録
黄金の光が解けた頃、保健室には青い衣を纏う者がいなくなっていた。
景色が解けたグラリアは、ルタに大丈夫かを尋ねる。ルタはというと、足元に落ちた短剣を見て「鞘の締まりが悪かったみたいだ」と謝る。
ルタが短剣を収める最中、グラリアの足元に落ちている紙に気付いたため、それをグラリアの落とし物だと指摘する。グラリアはルタの様子が変わったことに戸惑いつつも足元に落ちた紙を確認すると、絵が描かれていたはずのところが白紙に変わっていた。
2枚のうち、どちらの絵が白紙に変わってしまったのか、グラリアにはわからなかった。ルタの目の前で、ポケットに入っている絵を確かめることもできなかった。
シークスから頼まれたことを思い出したルタは、保健室について説明する。授業中体調が悪くなることがあれば保健室を訪ねること。授業以外で体調が悪くなり自力での回復が難しいときには、まずは守護団セフィルを訪ねること。やむを得ないときや急患のときには、ルタの家を直接訪ねること。
今のルーシェで医術の知識があるのはルタだけ。昔はクロウの父親ロルも急患の対応をしてくれたという。医者の夫を持つクレアも、最低限のことなら対応できるとのこと。
シークスから頼まれたことを全て説明したルタは、これで授業は終わりだと言った。グラリアは勇気を出して「私は、この島にいていいですか?」と尋ねると、ルタはにこやかに「もちろん」と答える。
ルタから、他に質問がなければシークスのもとに戻るようにと言われると、グラリアはさらに踏み込んで「ルタさんに好きな人はいますか? たとえば……今は連絡がないけれど、いつかトルニカ島まで来てくれる人、とか」と尋ねる。ルタは拍子抜けした顔をしたあと「今は恋愛に興味がないからな。たとえ御伽話の王子みたいな人がやって来ても、客人としてもてなすだけだ」とふわっとした回答をした。
保健室から出たグラリアは、ポケットの中にあった絵を確かめる。その絵には、オリヴィアとオリヴィアの母親、オリヴィアの祖母がいた。
白紙となったもうひとつの絵は、保健室のゴミ箱に入っている。