1-72
祠の遺跡前では、足首から血を流すグラリアがいた。ジェイスが遠くから改造注射器でグラリアを攻撃したようだ。クロウはグラリアを守るように抱きしめると、ジェイスの姿にロルを重ねる。
ジェイスはクロウたちに、これ以上動くと次は首を狙うと言ったため、クロウはその場から動き出せなくなる。グラリアは足の痺れを訴えていた。ジェイスは針に麻痺を仕込んでいると言った。
クロウとグラリアの前に来たジェイスは、グラリアを差し出すようクロウに命じる。ジェイスはグラリアを禁書だと呼んだ。クロウはジェイスに「グラリアは禁書じゃない!」と訴える。
ジェイスは表の封鎖されたの入口の方を見て「そろそろ君達のお友達もやってくる頃だろう」と言う。ユシカをふるいにかけられたとき、クロウはユシカもグラリアも選べない。時間が迫りゆくことに苦しんだ。
そこへルタが先に駆け付ける。ルタはジェイスの前に割って入ると、左手で短剣を構える。そしてクロウとグラリアに、祠の遺跡の奥へと逃げるよう命じた。クロウはグラリアを抱き抱える。そのときグラリアはルタにすっと腕時計を返す。クロウとグラリアは祠の遺跡に入り込んだ。
ジェイスはルタに、右手が使える状態でないことと、利き腕が使えないのは残念だと言った。ルタはジェイスに、なぜ自分の利き腕が右だと知っていると問う。
ルタは短剣を床に投げ捨てる。「裁きなら今受ける」と言った。そして、短剣の代わりに腕時計を握った。
ジェイスは死刑執行のため、武器を構える。するとルタは腕時計を前に差し出す。
「この腕時計、覚えていますか? 記念日として、貴方が私のために買ってくれたものです」
ジェイスは「覚えていない。何の記念日だ?」と不機嫌そうに問う。それでもルタは嬉しそうに微笑んだ。
「私、今度こそパスワードを忘れていません。パスワードは、恋人の本名にしましたから」
「あのメールをいただいてから6年間、この島でずっと貴方を待っていました。貴方が私に伝えたいことを聞かせてください」
1-73
ルドヴァイア兵らが人質のユシカを祠の遺跡の前まで連れてきたとき、ルタはもう亡くなっていた。ジェイスはルタを殺したと言った。
ルタが持っていた腕時計は、踏み潰された状態でルタとともに横たわる。
ユシカは泣き喚くが、ジェイスは気にせずルタの白衣を剥ぐ。ルタの白衣にはしっかり血が付着していた。それをひとりのルドヴァイア兵に手渡して「少年相手なら、お前ひとりで充分だ」と言ったあと、ユシカの方を向いて「君のお友達にも会わせてやろう。そのお友達が逆らえば、これと同じ末路ですがね」と言ってルタの死体を蹴る。
ジェイスは、ルタの白衣を持ったルドヴァイア兵ひとりを引き連れる。祠の遺跡の前にいたときには余裕そうな笑みを浮かべていたが、ユシカの泣き声が遠のくと笑みを消す。
1-74
クロウはグラリアを、祠の遺跡の舞台劇場のところまで連れてくる。ここまで来ればすぐに見つからないと信じて、クロウはグラリアを舞台で休ませたまま、出口に飛び出す。クロウは螺旋階段の下に続く道を見る。血痕はなく水浸しでもない。が、この先に隠れられる場所があるかの保証はないし、安全かどうかもわからない。それでもクロウは恐る恐る進んだ。
グラリアはというと、痺れが残る足のまま、舞台の上で辺りを見渡す。グラリアは「神殿……」と呟いた。そして、舞台劇場の観客席から見て右側の、舞台袖となる扉の前に立つ。グラリアは、知りたい気持ちと知りたくない気持ちに揺られた。
「運命は、崩壊しか待ち望んでいない」
「それでも私が目指す先には希望がある。私は希望を信じたから——」
誰かの言葉が、グラリアの脳裏によぎる。その誰かはフェロニエールを身に着けていた。
グラリアは心音が激しくなりながら、足元にある欠片に気付く。それは、その誰かが身につけていたフェロニエールの欠片であり、血が付着していた。
今は亡き誰かの言葉が再びよぎる。
「私に智慧を与えた君は、運命に奪われない言葉を導く、希望の少女だ」
それと同じシザール語の文字を、クロウは螺旋階段の下の道で見ていた。
シザール語の文字が書かれた扉は固く閉められている。クロウはそれ以上進めない。
そのとき後ろから、ジェイスの声が聞こえた。
「その先、気になりますか? 貴方が《絶望の少女》を差し出し、貴方が責任をもって罪を贖えば、知る事も出来ます」
1-75
グラリアは足に激痛が走る。同じ針がグラリアの足に襲い、強い痺れが襲う。
ジェイスがここまで来てしまった。この場所はそう簡単に見つからないはずなのにどうしてなのかと思ったとき、舞台劇場に現れたジェイスの目が、一瞬茶色ではなく青色に見えた。グラリアは悲しみのような、苦しみのような、怒りのような……あらゆる負の感情が渦巻く。しかし、ルドヴァイア兵にクロウが捕らわれているのに気付いて、我に返る。クロウはグラリアに逃げるよう言い、グラリアは逃げ道を探すが、ジェイスはルタの白衣を投げ捨てて「お友達を同じにしたいか?」と尋ねる。ルタの白衣だと気付いたグラリアは震え、クロウは怒った。
ジェイスはグラリアに、自力で舞台劇場の出口まで来るよう命じる。グラリアは四つん這いで向かうが、クロウはジェイスにそんなこと医者がすることではないと怒鳴った。クロウは泣きながら、ジェイスに何度もペテン師だと叫んだ。しかしジェイスがクロウに魔法をかけ、クロウは眠ってしまう。
ジェイスはルドヴァイア兵に、先にクロウを連れて行くよう命じた。
1-76
ジェイスはグラリアに、グラリアのお友達の意向で、グラリアを焼き殺さずルドヴァイア国で保護すると言った。しかしジェイスの言葉はグラリアには軋んで聞こえた。
ジェイスは何か別の言葉も言っているが、どうしてかその言葉を読めない。
グラリアは、ユシカとクロウは殺されないかを問う。ジェイスはグラリア次第だと答えた。
グラリアの沈んだ表情をジェイスが鼻で笑うと、ジェイスはグラリアを連行する。しかし振り返ったそのとき、ジェイスは手帳を落とす。その手帳には、なぜかオリヴィアとオリヴィアの母、オリヴィアの祖母の絵が書かれた紙が挟まっていた。
グラリアが「オリヴィア・グリシッド」と呟いたとき、ジェイスはグラリアの頬を強くはたく。倒れたグラリアの前髪を掴んだジェイスは、「私の許可なく力を使うな」と厳しく咎める。その時にも何か言葉が聞こえたが、今度は軋まず「私の痛ましい記憶を観るな」と聞こえた。